会社経営する上での価格戦略(プライシング)の全体像

会社経営する上での価格戦略(プライシング)の全体像

会社経営する上での価格戦略(プライシング)の全体像

本記事のテーマ

会社を経営する上でのマーケティング戦略の全体像に記載したとおり、マーケティングには大きな流れがあります。
その中で、この記事は、価格戦略について記載したものです。
これから起業したいと考えている方や、初めてマーケティングを担当する方の参考になれば幸いです。

価格戦略とは

価格戦略とは

価格は、マーケティングミックス(4P)の中でPriceのことです。そして、価格戦略とは、製品やサービスをいくらで販売するか、価格設定に関する戦略です。

会社を経営する上でのマーケティング戦略の全体像でご紹介した通り、会社の目的は企業価値の最大化で、そのために利益を最大化することです。
利益は、売上(製品1個あたりの価格×販売数量)から原価や費用を引いて計算されます。売上が最大になっても赤字で販売しては意味が無いので、価格設定において注意すべきは、利益が最大になる価格を設定するということです。

また、最終的には利益を最大化する価格を設定するのですが、戦略的に市場シェア拡大や競合との差別化を目的に価格を設定することもあります。この場合、一時的には利益が最大化する価格とはならない可能性もあるのですが、あくまで企業価値を最大化するという戦略に従ったものですので、長期的には利益が最大化する価格を設定していると言えます。

「どうすれば販売量が増えるのか」や「コストを下げるにはどうすれば良いか」は多くの人が意識するのですが、「いくらが最適な価格なのか」を意識している人は比較的少ないように感じます。
しかし、企業価値を最大化するためには、製品やサービスの価値を正確に把握して最適な価格を設定することが不可欠です。ここでは、無数にあるパターンから売上が最大になる最適な価格を設定するための戦略について記載したいと思います。

価格の下限と上限

価格に影響を与える要素は様々ありますが、価格の下限は製造コストによって決まり、価格の上限はカスタマーバリューによって決まります。
ただし、前述したように、戦略的に市場シェア拡大や競合との差別化を目的に価格を設定し、一時的には製造コストを下回る価格で販売することもあります。

製造コスト

製造コストについてまず注意すべきは、固定費と変動費という概念です。
固定費は、製品やサービスの販売量に関わらず一定金額発生するコストで、例えば工場の設備の減価償却費や人件費等のコストがあります。
変動費は、製品やサービスの販売量に比例して増減するコストで、材料費や仕入にかかったコスト等があります。

製造コストの内、固定費が多い場合は、固定費をカバーする売上が計上されるまで(損益分岐点を超えるまで)は赤字ですが、一旦損益分岐点を超えれば、超えた分の売上が利益になります。
一方で、製造コストの内、変動費が多い場合は、製品1つあたりの利益を最大化する必要があります。

カスタマーバリュー

カスタマーバリューは、顧客が適正と認める価値のことです。顧客が適正と認める価格以上の値段で販売することはできないので、カスタマーバリューが価格の上限になります。
カスタマーバリューはマーケティングリサーチによって見極めます。ただし、啓蒙活動等によってカスタマーバリューを高めることは可能です。

なお、マーケティングリサーチについては、以下の記事をご参考にして下さい。
スタートアップで実践するマーケティングリサーチの全て

価格設定の手法

原価志向の価格設定

  • コストプラス価格設定:
    実際に発生したコストに利益を上乗せして価格を決定する方法です。建設業界等、事前にコストがはっきり確定しない場合に用いられます。
  • マークアップ価格設定:
    仕入原価に一定のマークアップ(上乗せ)をして価格を決定する方法です。流通業で一般的に用いられます。
  • ターゲット価格設定:
    想定される事業規模を基に、一定の利益が確保できるように価格を決定する方法です。工場設備の稼働率が問題となる化学品などの業界で用いられます。

需要志向の価格設定

  • 知覚価値価格設定:
    マーケティングリサーチによって「売れる価格帯」を発見して価格を決定する方法です。
  • 需要価格設定:
    市場セグメントごとに異なる価格を設定する方法です。顧客層、時間帯、場所等の違いによって、異なる価格を決定する方法です。

競争志向の価格設定

  • 入札:
    顧客が入札によって一番低い価格を提供した提案する売り手を探す方法です。
  • 実勢価格:
    競合の価格を考慮して価格を決定する方法です。リーディングカンパニーが提示した価格に追随して価格を決定したり、競合がお互いの価格を意識して価格を決定している業界もあります。

新製品の価格設定

  • ペネトレーション・プライシング(市場浸透価格設定):
    初期の段階から市場への浸透やシェアの拡大を図るために、価格をコストと同等、あるいはコスト以下に設定する方法です。販売量が増加するにつれて製造コストが下がる場合(経験効果や規模の経済がはたらく場合)は、市場に導入した当初から、消費者にとって魅力的な価格を設定することで、購入へのハードルを下げるという価格戦略です。
  • スキミング・プライシング(上層吸収価格設定):
    初期の段階で高価格を設定することで、新製品の開発にかかったコストを早期に回収する方法です。半導体等の業界でこの方法が用いられており、製品開発を最も早く行った企業が、2番手以下の企業に対して収益面で大きく優位に立てます。

価格戦略と心理的な効果

価格戦略と心理的な効果

人は、常に合理的な意思決定ができる訳ではなく、自身が置かれた状況によって行動に影響を及ぼす場合があります。このような行動を分析したのが行動経済学です。
価格戦略においては、行動経済学のような心理的なテクニックを用いることも有効です。
以下、心理的に効果がある有名なテクニックをいくつかご紹介します。

アンカリング

アンカリングとは、最初に与えた情報がその後の判断に影響を及ぼすという心理効果です。
例えば、以下のような方法があります。

  • 初めに高い価格を見せておいて、相対的に安い価格の製品やサービスを売り込む方法
  • 購入して欲しい本命の製品やサービスよりも見劣りする製品やサービスを同価格帯で並べて提示して、本命の製品やサービスの販売量を増やす方法
  • 松竹梅の3パターンの価格を提示することで、2番目(竹)の製品やサービスの販売量を増やす方法

価格を端数にする

価格を端数にすることで、顧客は無意識に「この価格は信憑性がある」と感じる効果があります。
また、複数桁の数字は一番左の桁の数字が強く印象を与える効果があります。
そこで、当初は299円のような価格にする方法が多かったのですが、顧客が9という数字に慣れてしまい299円を300円と頭で処理できるようになってきたので、298円のように9以外の数字を末尾に用いて価格を設定している事例も見受けられます。

選択肢を限定する

価格プランをいくつか用意する場合は、「選択のパラドクス」という人間の脳の特性があります。
選択肢が多すぎると人は判断できなくなるので、選択肢は少なくしたほうが購入に繋がりやすいという効果があります。そのため、選択肢は5つ程度にして多くしすぎないのが良いでしょう。

料金を定額にする

購入する度にお金を支払うのは脳が痛みを感じるので、定額にできるのであれば定額にした方が望ましいです。
また定額にすることで、使わなければ損という心理がはたらくので、製品やサービスの利用度が高くなるという効果があります。

パッケージ販売

個別に販売すると合計の値段を計算する必要があるため、高くなりすぎないようにブレーキがかかります。
そのため複数の製品やサービスをパッケージにして販売すれば、個々の製品やサービスの金額が分かり辛くなり、脳の痛みが軽減される効果があります。また、選択の手間が省けて顧客に余計な手間をかけさせないという効果もあります。

成果報酬

顧客は何か目的があり製品やサービスを利用します。
成果報酬にすると、目的が達成されなかった場合にお金を支払わなくて済むので、安心して製品やサービスを利用することができます。そのため、可能であれば成果報酬にするのが良いでしょう。

ダイナミックプライシング

ダイナミックプライシングとは

ダイナミックプライシングは、市場の需要に応じて柔軟に価格を変える方法です。
近年、ビッグデータを分析し、リアルタイムで正確に企業の利益を最大化する価格設定が可能になったため、導入する企業が増えています。

ダイナミックプライシングのメリットとデメリット

顧客

需要が下がる時期にあえて購入することで、定価よりも安い金額で商品を手に入れることができるというメリットがありますが、今まで定価で購入していた商品価格が高騰するというデメリットがあります。

売り手

需要が下がる時期に価格を下げれば購入者も増えるため、不良在庫を減らすことができるというメリットがありますが、値上げ額が大きくなれば顧客に不信感を与えてしまう可能性があるというデメリットがあります。

まとめ

今回は、価格戦略について記載しました。
これから起業したいと考えている方や、初めてマーケティングを担当する方の参考になれば幸いです。