株式会社マネーフォワード設立からIPOまで

株式会社マネーフォワード設立からIPOまで

株式会社マネーフォワード設立からIPOまで

本記事のテーマ

近年IPOに成功したスタートアップの内、特に設立から短期間で上場した会社をピックアップして、どのような会社が短期間で上場するのか、短期間で上場するためにはどのようなことが必要なのかという視点で、設立からIPOまでのタグで連載しています。
なお、スタートアップの各ステージ(Seed〜SeriesC)において注意すべきことという記事で、会社設立からIPOを目指す上での大きな流れを記載していますので、是非ご参考にして下さい。
今回は、株式会社マネーフォワードです。

なお、近年上場した会社の一覧や時価総額はこちらから確認できます。

また、マネーフォワードの上場時の時価総額、財務情報等はこちらから確認できます。

株式会社マネーフォワード

株式会社マネーフォワードの創業者である辻氏のファーストキャリアは株式会社ソニーの経理部で、その後マネックス証券株式会社に転籍し、同社のマーケティング部長兼COOを経験した後、2012年5月に株式会社マネーフォワードの前身であるマネーブック株式会社を設立しました。その後、2017年9月に東証マザーズに上場し、設立から約5年での短期上場となりました。

マネーフォワードの沿革について

  • 2012年5月:マネーブック株式会社設立
  • 2012年12月:株式会社マネーフォワードに商号変更、自動家計簿・資産管理サービス「マネーフォワード」リリース
  • 2013年3月:恵比寿に本社移転
  • 2013年11月:「マネーフォワード For BUSINESS」(現「MFクラウド会計・確定申告」)リリース
  • 2013年12月:お金のウェブメディア「マネトク」(現くらしの経済メディア「MONEY PLUS」)リリース
  • 2014年2月:東京都港区三田に本社移転
  • 2014年5月:「MFクラウド請求書」リリース
  • 2015年3月:「MFクラウド給与」リリース
  • 2015年4月:「MFクラウド請求書」に新機能「自動入金消込機能」(現「MFクラウド消込」)リリース
  • 2015年5月:東京都港区芝に本社移転
  • 2015年8月:Fintechに関する調査・研究を行うマネーフォワードFintech研究所設立、「MFクラウドマイナンバー」リリース
  • 2015年10月:株式会社NTTデータと「Open Bank API」の共同検討開始
  • 2015年11月:金融機関向け「マネーフォワード」リリース
  • 2016年1月:「MFクラウド経費」リリース
  • 2016年6月:「MFクラウド地方創生プロジェクト」を始動
  • 2016年9月:中小企業のITツールの活用を促進する一般社団法人Business IT推進協会を設立
  • 2016年12月:100%子会社として、株式会社MF Alpha Labを設立
  • 2017年1月:「MFクラウドファイナンス」に商品掲載開始
  • 2017年3月:100%子会社として、MF KESSAI株式会社を設立
  • 2017年4月:100%子会社として、MF HOSHO株式会社を設立

マネーフォワードが解決した課題とプロダクト

マネーフォワードは「すべての人のお金のプラットフォームになる」というビジョンで、上場時点で大きく2つのサービスラインナップがあります。
1つは、BtoC領域としてお金の管理を容易にする自動家計簿・資産管理サービス「マネーフォワード」の提供を行うサービス、もう1つは、BtoB領域として法人・個人事業主の生産性向上や経営力向上を可能にする「MFクラウド会計・確定申告・請求書・給与・消込・マイナンバー・経費」といったクラウド型バックオフィス向けサービスや、資金調達を迅速かつ容易に可能とする「MFクラウドファイナンス」をあわせたMFクラウドサービスです。
マネーフォワードは、個人・法人いずれのユーザーに対しても、お金の課題を解決することを目指しているのですが、これは、創業者である辻氏の原体験が影響しているようです。

辻氏によると、BtoC向けサービスとしては、お金に関する不安はたくさんあるものの、これを解消するためにどうすればいいのか考えたときに、お金の課題を解決するときに、そもそもスタート地点さえ分からないという理由から、自分がお金をいくら持っていて、いくら使っていて、将来いくら必要で、そのためにはどうすればいいのかについて、自動で見れるようするという視点で、自動でラクにつけられる家計簿として、自動家計簿・資産管理サービスを作ったそうです。

また、BtoB向けサービスとしては、辻氏のファーストキャリアがソニーの経理部で、そこでは手作業が多く、紙をバインダーで止めて、書庫に入れてというような作業を夜中までやっている中で、手作業を減らしたいと思ったこととがきっかけのようです。さらに、当初辻氏が自分で不動産投資を行っており、確定申告に相当時間がかかっていたようです。そんな中、BtoC向けのサービスのユーザーアンケートやヒアリングで「確定申告をラクにしてほしい」というニーズがあることが明らかになり、「ニーズがあるなら確定申告のサービスもやるべきだ」ということでBtoB向けサービスを提供する決断をしたそうです。

なお、辻氏は、当初マネーブックという「使い勝手・分かりやすさ・セキュリティを重視。個々人の資産・取引情報を比較することが、安心と行動につながる」というコンセプトのサービスで、金融リテラシーとかお金の教育について、上手くやっている人をフォローしてその人が何に投資しているかを見ることができるサービスの提供を構想し、6ヶ月程の期間で開発したそうですが、リリース後1日のユーザーが20人程で、その後もずっと低空飛行だったことから、ピボットしたようです。短期間でIPOにも成功した会社でも、設立当初に失敗を経験をしているのは興味深いです。

https://biz.moneyforward.com/blog/40119/

いかにペルソナの課題を解決するサービスを提供することが大切かということが伝わります。
関連する記事として、以下の記事を是非ご参考にして下さい。
スタートアップの各ステージにおいて注意すべきことスタートアップを実践して学んだ仮説検証の方法
スタートアップで起業に失敗する原因と体験談

マネーフォワードの成長とマーケティング戦略について

BtoC向け「マネーフォワード」

「マネーフォワード」では、複数の金融機関等にある口座の残高や入出金履歴などのデータを集約・分類して表示し、それによってユーザーはお金に関する情報を一元管理できます。
また、他にも、暮らしの経済メディアの『MONEY PLUS』を運営し、お金にまつわる情報の提供から、データの管理までを一気通貫で提供しています。

「マネーフォワード」の初期のユーザーは、30〜40代のIT系男性で、ITリテラシーの高い、投資や資産運用に興味がある、イノベーターやアーリーアダプターがメインユーザーでした。
当初はユーザーを増やそうとして、お金をかけて集客しましたが、情報を集約する部分で離脱したりと、集めたユーザー数にくらべて残ったユーザー数が少ない問題があったところ、まずはリテンションしてもらうために、情報集約することでどのようなメリットがあるのかを正しく伝えることに注力したそうです。

また、プレミアムサービスへのCVR(コンバージョン率)をあげるために、銀行や証券会社、クレジットカードなどの連携数の拡大やUIの改善をおこない、効率が良くなってきたところで、ユーザー獲得に再チャレンジした結果、利用者数が450万ユーザーまで伸びました。

そして、具体的なユーザー獲得の施策はTVCMで、年末年始は家計簿をはじめる人が多く、そのタイミングでTVCMしたことにより、検索キーワード「家計簿」での流入が増え、大量のユーザーが獲得できたそうです。
以前に記載した設立から上場までの期間が短い会社まとめ(株式会社メルカリ)も同じだったように、一定のユーザーを獲得してからは、TVCMの効果が高いようです。

これらの施策の結果、2017年7月末時点で、利用者数は500万人となり、市場シェアもNo1となりました。

また、IPO時点での収益構造としては3本柱で、①プレミアムユーザーへの有料課金、②暮らしの経済メディア『MONEY PLUS』の広告収入、③BtoBtoC事業となっています。
①のプレミアムユーザーにアップセルしてもらうための施策としては、クレジットカードの使用頻度とネットバンクの使用頻度の高低で2×2の4パターンに区分して、使用頻度が高いユーザーにはネットバンクやクレジットカードの連携を進める通知を行い、反対に、使用頻度が低いユーザーには通知しないといった、ユーザー情報による出し分けを行いました。
また、連携を薦める際も、さらに詳細に所持しているカードの種類などを質問から選択してもらい、その返答によって具体的な連携の方法をプッシュ通知していました。
https://ledge.ai/moneyforward/

③のBtoBtoC事業は、「マネーフォワード」API利用料の課金、家計簿サービスの提供によるスゴ得、auスマートパス、App Pass等へのコンテンツ提供、金融機関向けの自動家計簿・資産管理サービスとしてスマートフォンアプリの提供、金融機関利用者向けの通帳アプリ「かんたん通帳」の提供等があります。

その結果、BtoC向け事業の売上高は、2015年11月期が253百万円、2016年11月期が794百万円と3倍以上成長しています。

BtoB向け「MFクラウド」シリーズ

「MFクラウド」シリーズは、中小企業の経営及びバックオフィス業務を大幅に効率化、さらに経営状況をリアルタイムで把握することにより、経営PDCAサイクルを加速化し、経営状況を改善することを目的としたサービスです。
「MFクラウド」の収益構造としては、月額課金モデルで、サービスやプランによって異なる価格帯としています。
また、IPO時点での販売経路は、ウェブサイトでの販売、営業人員による会計事務所や事業者への販売、量販店での販売、商工会議所を含む代理店経由での販売があります。

当初、「MFクラウド」を中小企業に導入してもらうにあたって、「導入できる人材がいない」「効果がわからない、評価できない」「コストが負担できない」といった課題があり、それらの課題を以下のようにして解決しました。

  • 会計(確定申告を含む)・請求書管理・給与計算・マイナンバー管理・経費精算におけるすべての業務をクラウドで完結できる、中小企業向けのERPパッケージを提供し、社員数が5名以下だと月額3,900円、社員数が10名以下でも1万円を切るようなリーズナブルな価格でサービスが利用できるようにした。
  • 商工会議所や市役所の職員の方々に、地域の企業への導入支援などサポートをしてもらった。
  • 「MFクラウド会計 for XX(業種)」のような、様々な業種に特化した勘定科目体系や、主要プレーヤーとの連携を強化してユーザーにとって使いやすい機能を実装したり、各業界に強い会計事務所と連携して各地域・各業種でセミナーを開催した。

https://moneyforward.com/blog_tsuji/?p=1372

その結果、BtoB向け事業の2016年11月期の売上は186百万円、2017年11月期の売上は736百万円と約4倍の成長をしています。

マネーフォワードの資金調達について

上場時のマネーフォワードの資金調達額は、公募(新しく発行した株を投資家に買ってもらうこと)で2,507百万円、また、売出(創業者などの大株主の保有している株の一部を投資家に買ってもらうこと)は1,443百万円です。
上場直後の2017年11月末時点において、創業者の辻氏は17.46%の株式を所有し、次いでジャフコSV4共有投資事業有限責任組合が9.77%を所有しています。

  • 2012年5月:14百万円
  • 2012年9月:5百万円(発行済株式の約25%)
  • 2012年12月:20百万円(発行済株式の約24%)
  • 2013年3月:102百万円(発行済株式の約46%)
  • 2013年10月:500百万円(発行済株式の約16%)
  • 2014年1月18日:55百万円(発行済株式の約1%)
  • 2014年12月19日:1,005百万円(発行済株式の約11%)
  • 2014年12月24日:500百万円(発行済株式の約5%)
  • 2015年9月3日:978百万円(発行済株式の約6%)
  • 2015年10月19日:560百万円(発行済株式の約3%)
  • 2016年10月5日:110百万円(発行済株式の約4%)

マネーフォワードの時価総額について

株式会社マネーフォワードの時価総額について、上場時の公募・売出価格は1,550円、上場時の発行済株式総数は18,279,400株であり、時価総額は28,333百万円となりました。

まとめ

今回は、株式会社マネーフォワードが短期間で上場した経緯をまとめました。

なお、IPOを行なうと、一般投資家が株主となることから、上場時の審査の際には会社の管理体制等についても厳しくチェックされます。
そのため、IPOを目指す際には、IPO準備にも力を入れる必要があるのですが、このあたりについて関連する記事がありますので、こちらも是非ご参考にして下さい。
スタートアップのIPO準備(上場準備)について