フリー株式会社設立からIPOまで

フリー株式会社設立からIPOまで

フリー株式会社設立からIPOまで

本記事のテーマ

近年IPOに成功したスタートアップの内、特に設立から短期間で上場した会社をピックアップして、どのような会社が短期間で上場するのか、短期間で上場するためにはどのようなことが必要なのかという視点で、設立からIPOまでのタグで連載しています。
なお、スタートアップの各ステージ(Seed〜SeriesC)において注意すべきことという記事で、会社設立からIPOを目指す上での大きな流れを記載していますので、是非ご参考にして下さい。
今回は、フリー株式会社です。

なお、近年上場した会社の一覧や時価総額はこちらから確認できます。

また、フリー(株)の上場時の時価総額、財務情報等はこちらから確認できます。

フリー株式会社

フリー株式会社は2012年7月に設立し、2019年12月に設立から約7年で上場しました。
以前に、マネーフォワード設立からIPOまでを記事にしましたが、マネーフォワードは2012年5月に設立し、2017年9月に上場しています。
クラウド会計ソフトというサービスを、同時期に設立して事業展開してきた両社が共にIPOしたことが、起業経験がある筆者は個人的に興味があるため、マネーフォワードと対比しながらまとめてみたいと思います。

フリーの沿革について

フリーを設立した佐々木氏のファーストキャリアは博報堂で、2年半後に投資ファンドに転職、その後知人のベンチャー企業のCFOに転職、さらにGoogleで日本及びアジア・パシフィック地域での中小企業向けのマーケティングチームを統括しました。
CFOを務めていた時に経理、法務、人事などのバックオフィス業務の現場の非効率さを感じて、Googleに在籍していた時に今後のクラウドが会計ソフトに及ぼす影響を意識したり、日本の開業率の低さに問題意識を持ったことがfreeeを設立した動機だそうです。
佐々木氏はもともとエンジニアではありませんでしたが、freeeの構想ができた頃にRuby on Railsの勉強をしてプロトタイプを開発しました。
佐々木氏は、簡単かつ自動で使えるクラウド会計ソフトにはニーズが必ずあると確信していたものの、リリース前の調査やヒアリングではfreeeの評価はそれほど高くなかったようです。そんな中、半信半疑で2013年3月に「クラウド会計ソフトfreee」をリリースしました。

「リリース前の評価は低かった。」CEO佐々木大輔のブログで振り返るfreeeの軌跡。

  • 2012年7月:CFO株式会社設立
  • 2013年3月:「クラウド会計ソフトfreee」をリリース
  • 2013年7月:商号をCFO株式会社からフリー株式会社に変更
  • 2014年2月:「クラウド会計ソフトfreee iOS版」をリリース
  • 2014年4月:「クラウド会計ソフトfreee Android版」をリリース
  • 2014年10月:「クラウド給与計算ソフトfreee」をリリース
  • 2015年6月:「会社設立freee」をリリース
  • 2015年9月:「マイナンバー管理freee」をリリース
  • 2015年12月:金融機関向けプロダクトをリリースし、11行との連携を開始
  • 2016年10月:「開業freee」をリリース
  • 2016年10月:国内初のメガバンクとのAPI連携(株式会社みずほ銀行)
  • 2016年10月:「申告freee」をリリース
  • 2017年3月:「クラウド会計ソフトfreee」において、上場会社(金融商品取引法監査)に対応したエンタープライズプランをリリース
  • 2017年7月:事業用クレジットカード「freeeカード」を開発
  • 2017年8月:「クラウド給与計算ソフトfreee」をリブランドし、「人事労務freee」をリリース
  • 2018年10月:子会社フリーファイナンスラボ株式会社を設立
  • 2019年1月:アプリケーションプラットフォーム「freeeアプリストア」をリリース
  • 2019年6月:フリーファイナンスラボ株式会社が「資金繰り改善ナビ」をリリース

ここで、マネーフォワードが「マネーフォワード For BUSINESS(現「MFクラウド会計・確定申告」)」をリリースしたのが2013年11月なので、クラウド会計ソフトを先にリリースしたのはフリー株式会社です。
また、マネーフォワードが「MFクラウド給与」をリリースしたのは、2015年3月なので、クラウド給与計算ソフトをリリースしたのもフリー株式会社の方が先です。
金融機関向け「マネーフォワード」をリリースしたのは2015年11月で、金融機関向けプロダクトをリリースしたのはほとんど同時期です。

フリーが解決した課題とプロダクト

フリーが解決した課題

フリー株式会社は、「スモールビジネスを、世界の主役に」をミッションに、「アイデアやパッションやスキルがあればだれでも、ビジネスを強くスマートに育てられるプラットフォーム」の実現を目指してサービスの開発及び提供をしています。
2018年7月以前は、「スモールビジネスに関わる全ての人が創造的な活動にフォーカスできるよう」というミッションでしたが、「時間の創出」だけでなく、「収益の創出」にも繋がるようになったこと等から変更されました。

新ミッション「スモールビジネスを、世界の主役に。」

上場時点でfreeeが提供するプロダクトは多岐に渡りますが、共通するのはバックオフィスの生産性向上に寄与するSaaSという点です。

一般的な会計ソフトは、全ての取引を仕訳として手動入力する必要があり、多くの手間を要するという課題がありました。
これを「クラウド会計ソフトfreee」の提供によって、クレジットカードや銀行の口座との連携により自動で仕訳を行うことができるようにすることで、手作業や手入力にかけてきた時間と工数を削減し、生産性を向上しています。また、簿記の知識が無い人でも直感的に使用可能なユーザー・インターフェイスにより、専門人材の確保が困難なスモールビジネスが自社で財務会計や管理会計までを実施することを可能にしています。
同様に、人事労務業務においても、「人事労務freee」の提供によって、専門的知識がなくても給与計算や人事労務に関する各種届出を可能にしています。

「クラウド会計ソフトfreee」

個人事業主や法人向けに提供しているクラウド会計ソフトです。
銀行口座やクレジットカードの連携、請求、債権管理、支払処理等、経理業務の効率化を行うことができます。
また、経営指標のモニタリング等の経営分析が可能です。
さらに、内部統制の整備のためのワークフロー機能も提供しています。

「人事労務freee」

法人向けに提供しているクラウド人事労務ソフトです。を
給与計算、勤怠管理、保険・行政手続、マイナンバー管理等の業務に必要な情報を一元管理し、人事労務業務の効率化を行うことができます。

「会社設立freee」「開業freee」

法人の会社設立時や、個人事業主の開業時に提出が必要な書類の作成を効率化できるサービスです。

「申告freee」

「クラウド会計ソフトfreee」に入力された財務情報を基に税務申告書を自動的に作成することができ、作成した申告書を電子申告することができるサービスです。

金融サービス

創業期の多くの企業が課題にかんじている資金繰りについて、「freeeカード」、「オファー型融資」、「請求書ファイナンス」といったサービスを提供しています。

「freeeカード」

クレジットカード作成が容易でなかった個人事業主や中小企業に特化したクレジットカードです。

「オファー型融資」

融資を受けられる可能性が高い「クラウド会計ソフトfreee」のユーザーに、借入可能額や金利などの借入条件を提示するサービスです。

「請求書ファイナンス」

請求書買取により、「クラウド会計ソフトfreee」に登録されている売掛債権を、オンラインで現金化することができるサービスです。

フリーとマネーフォワードのプロダクトの違い

フリーがマネーフォワードと大きく違うのは、フリーは、専門人材の確保が難しいスモールビジネスのために、専門的知識がなくても業務効率化できるサービスを提供することを目指している点です。マネーフォワードは、お金にまつわるプラットフォームを目指しています。
そのため、例えば、マネーフォワードは、BtoBのクラウド会計ソフトだけでなく、BtoC領域にも展開しており、お金にまつわるメディアを作ったりしています。また、クラウド会計ソフトは、複式簿記の借方・貸方といった知識を前提としており、経理経験者が使いやすいようなUIになっています。
一方で、フリーは、未経験者にとって使いやすいUIを目指していることから、専門的知識がなくても経理業務を簡単に行うことが出来るUIになっており、また、スマートフォンのアプリも使いやすいUIになっています。運用するメディアもお金というよりは、スモールビジネスの運営に役立つ情報を提供するものになっています。

フリー創業当初のプロダクト開発体制の変遷

2012年7月

社長の佐々木氏を始めとした3名体制(+インターン学生数人)でのプロダクト開発。

2013年3月

中途採用のエンジニアが入社し始めた。
とにかくひたすら作る開発スタイルから、エンジニアごとに四半期単位で目標を決めて、その振り返りを行い課題を出して業務改善。

2013年12月

エンジニアが10名を超え、動いているタスクの量やサービスの機能も一致に増えて管理ができなくなってきたため、チーム制を導入。(会計サービスや基盤、モバイルなどの機能単位)

2014年2月

UIディレクターとデータサイエンティストが入社。

  • UIディレクターが画面作成
  • エンジニアが開発
  • データサイエンティストが開発した画面の使われ方を分析

2014年6月

エンジニア24名体制(業務委託、インターン)。
カスタマーサポートチームのメンバーが増加。
サービス開始当初はサポートは1名で、1日の問い合わせ件数も10件程だったが、利用する登録事業者が10万を超え、問い合わせ件数は1日最大500件に達した。
よりリアルタイムにユーザーの疑問・不安を解消するため、2014年1月からチャットサポートを開始した。

2016年1月

エンジニア46名体制。
他の人が何をやっているかわかりづらい、組織に対する意見が様々なところで出るなどの問題が発生し、マネジメントが必要に。
チーム間で調整が必要な事項を取り持ったり、2週間に1度のペースで1on1を行って、エンジニアの考えや不満を吸い上げる等の対応をする「エンジニアマネージャー」というチームが生まれた。
また、2名のチームでQAチームが誕生し、不具合の管理や分析、テストを実行して、デプロイする。

フリーの成長とマーケティング戦略について

フリーの成長

フリーの創業初期の「クラウド会計ソフトfreee」リリース直後は、実直に「シンプルなビジネスを想定した際に、経理の業務を限りなく自動化し、個人事業主であれば確定申告まで自動で簡単にできる」ということを目指して、業界初となるチャットサポートの提供も開始し、お客様の疑問点等を素早く適切に解消する体制を整え、問い合わせが多い部分などを中心に、ユーザーインターフェースの改善に注力したようです。
また、経理周辺の業務プロセス自体を大幅に改善し、小さなビジネスのメンバー全員がより効率的に働ける環境をつくるために、モバイルでの利用を簡便化しました。
これは、2013年3月に「クラウド会計ソフトfreee」をリリースしてから、2014年2月には「クラウド会計ソフトfreee iOS版」を、2014年4月には「クラウド会計ソフトfreee Android版」をリリースしていることからも分かります。
また、コンセプトを実現するために必要なものすべてをfreeeが提供することはできないことから、他のパートナーやツールとのオープンな連携をサポートするプラットフォームとして活用してもらうことを目指して、例えば、全国の会計事務所・税理士事務所を対象として、freeeを活用したサービス提供を支援する「freee認定アドバイザープログラム」を実施し、会計事務所にアドバイザーとして登録してもらいました。

クラウド会計ソフトでのシェア、freeeがNo.1になるまでにした5つのこと – 2014年のまとめ

このような積み重ねで、「クラウド会計ソフトfreee」の登録事業所数は、2013年6月にはサービス開始から約3ヶ月で5千を超え、2013年9月には1万、2013年12月には2万、2014年7月には10万、2015年10月には40万、2016年2月には50万を突破しました。
また、2013年11月に開始した「freee認定アドバイザー」制度は、2014年11月には600、2015年12月には2,000、2016年9月には3,000、2017年11月には5,000を突破しました。
さらに、「クラウド給与計算ソフトfreee」も、2014年10月のリリースから2年経過した2016年11月には、登録事業所数が10万を突破しました。

この結果から、売上高は、第3期(2015年6月期)には216百万円、第4期(2016年6月期)には568百万円、第5期(2017年6月期)には1,202百万円、第6期(2018年6月期)には2,414百万円、第7期(2019年6月期)には4,579百万円となりました。

フリーのマーケティング戦略

「認定アドバイザー制度」の運営を通じて、会計事務所及び顧問先となる中小企業の双方において、業務効率化と会計事務所のより高付加価値なサービス提供が可能となり、freeeの成長を支えました。

また、フリーの成長を支えたマーケティング戦略について、短期的に顧客獲得するためのリスティング広告やプロモーション施策(Google広告やFacebook広告、Yahoo!プロモーション広告のような主要な広告運用)はもちろんですが、その他に、フリーの組織文化の1つでもある「本質的(マジ)で価値ある」があります。

「本質的(マジ)で価値ある」は、ユーザーに価値ある内容を伝えるために既存の枠にとらわれず、成果にこだわり続け、その結果として認知を高めユーザーの獲得をするというものです。
例えば、中小企業の悩みを解消することを目的としたオウンドメディア「経営ハッカー」や、「会社設立freee」は、ターゲットの課題に合わせたコンテンツを展開することで、フリーの顧客獲得に寄与しています。
この「経営ハッカー」は組織横断的にマネジメントしているそうですが、それ以外のメディアは各事業部が自由にやっているようです。
全てを組織横断で判断しようとするとスピードが失われてしまうことから、個々人の担当者が強いオーナーシップを持ってマーケティング施策に取り組んでいます。
また、フリーのマーケターは、セールスに営業同行したり、セールスがお客様と電話している横で、イヤホンジャックをつないでお客様との会話を聞いたりして、リアルな声をもとに一つ一つ勉強し、同行のあとは、2~3週間くらいインサイドセールスチームに入って架電をしたり、サクセスチームに入ってお客様の要望に応えたりしているそうです。

このように、「本質的(マジ)で価値ある」という共通の価値基準が、社内にも社外にも良い影響を与えてブランディングされています。

フリーの資金調達について

上場時のフリーの資金調達額は公募(新しく発行した株を投資家に買ってもらうこと)で10,870百万円、また、売出(創業者などの大株主の保有している株の一部を投資家に買ってもらうこと)は24,082百万円です。
上場時のフリーの株主は、創業者の佐々木氏が24.9%の株式を所有し、次いで創業初期から出資したDCM Venturesが18.5%、Infinity Venturesが7.7%を所有しています。

  • 2012年7月:1百万円
  • 2012年12月:58百万円
  • 2013年7月:275百万円
  • 2014年4月:800百万円
  • 2014年10月:629百万円(発行済株式総数の約7.5%)
  • 2015年8月:3,499百万円(発行済株式総数の約13.1%)
  • 2015年12月:1,000百万円(発行済株式総数の約3.5%)
  • 2016年12月:3,349百万円(発行済株式総数の約9.5%)
  • 2018年8月:6,500百万円(発行済株式総数の約11.0%)

フリーの時価総額について

フリー株式会社の上場時の公募・売出価格は2,000円、上場時の発行済株式総数は46,639,891株であり、時価総額は93,279百万円となりました。

まとめ

今回は、フリー株式会社が短期間で上場した経緯をまとめました。

なお、IPOを行なうと、一般投資家が株主となることから、上場時の審査の際には会社の管理体制等についても厳しくチェックされます。
そのため、IPOを目指す際には、IPO準備にも力を入れる必要があるのですが、このあたりについて関連する記事がありますので、こちらも是非ご参考にして下さい。
スタートアップのIPO準備(上場準備)について