スタートアップのIPO準備(上場準備)について

スタートアップのIPO準備(上場準備)について

スタートアップのIPO準備(上場準備)について

本記事のテーマ

この記事は、スタートアップのIPO準備(上場準備)について記載したものです。
これからスタートアップで上場を目指す方の参考になれば幸いです。

IPO(株式の上場)とは

IPOとは、自社の株式を、不特定多数の一般投資家に開放して、株式市場において自由に売買ができるようにすることです。

IPO(株式の上場)のメリット

IPOをすることで、以下のようなメリットが得られます。

  • IPO(株式の上場)をする企業のメリット: IPOによって資金調達ができることや知名度・信用度の向上、優秀な人材確保、個人的経営からの脱却等
  • 従業員のメリット: ストックオプションによるキャピタルゲイン、モチベーション向上、福利厚生制度の充実等
  • 経営者のメリット: キャピタルゲインによる創業者利益の獲得、個人保証の解消等
  • 後継者への引き継ぎメリット: 株式の換金性の高まりによる相続対策、優秀な後継者候補の獲得等

IPO(株式の上場)によって企業に求められる責任や負担

IPOをすると上記のようなメリットが得られる一方で、次のような責任や負担が生じます。

  • ディスクロージャー(開示)義務が生じる
  • 株式事務の負担が増す
  • 上場維持コストが発生する
  • 株主総会対策を行う必要が生じる
  • 株価へのプレッシャーが生じる
  • 買収リスクが生じる
  • 社会的責任(CSR)が生じる

IPO(株式の上場)のスケジュール

全体のスケジュール

IPOを行う会計年度は「申請期」と呼びます。
一般に、IPOスケジュールのスタートは、「申請期」の2〜3年前です。また、申請期の前の2期間を「直前期」「直前々期」と呼びます。時系列で並べると、「直前々期」「直前期」「申請期」の順番です。

IPO準備を開始するタイミングで、通常は監査法人の短期調査(ショートレビュー)を受けます。
短期調査とは、企業の現状を把握し、上場に向けて解決すべき問題点の抽出と、それに対する改善点と改善案やスケジュール等を総合的に調査し、報告書として提出するものです。経営者はこの報告書の内容を検討して、最終的な上場意思決定を行います。

IPO準備(上場準備)の外部関係者

IPO準備には、以下のように、様々な関係者が必要です。

  • 主幹事証券会社: IPOに関する業務を行う証券会社
  • 監査法人: 財務諸表監査と上場準備に関する助言指導を行う
  • 印刷会社(宝印刷、プロネクサス): 上場時の申請書類、上場後の有価証券報告書等の開示書類及び株主総会関連書類の印刷を行う
  • 株式事務代行機関: 株主名簿管理人として株主名簿の作成、配当処理等の株式に関する事務を円滑に実施する機関
  • IPOコンサルティング会社: 内部統制の構築や上場申請書類等の作成についてのコンサルティング業務を実施する

直前々期と直前期で対応すべきこと

直前々期において、短期調査で指摘された不備項目を整備し、運用する必要があります。
一般的に、直前々期で整備し、直前期で最低でも1年程度運用します。
また、直前期では、上場申請書類をドラフトし、主幹事証券会社、監査法人、印刷会社にチェックや助言指導を依頼します。

直前々期と直前期で整備・運用すべき項目としては以下のとおりです。

  • 利益管理体制(事業計画、予算、月次決算)
  • 業務管理体制
  • 経営管理体制(組織体制、諸規定、内部監査)
  • 内部統制報告制度対応
  • 関係会社の整備
  • 関連当事者等との取引の整備
  • 企業会計の適用
  • 申請書類の作成

申請期で対応すべきこと

上場申請までに、定款変更(株式譲渡制限の廃止、株主名簿管理人の設置、官報以外への公告の方法の変更、会計監査人・監査役会の設置、単元株制度の採用)が必要です。
また、主幹事証券会社へ上場申請書類を提出する前後で、主幹事証券会社から出される質問に対応し、引受審査を受ける必要があります。
そして、証券取引所の上場審査を受けます。想定問答や予行演習といった事前対応が主幹事証券会社により実施されますが、上場審査はIPOの最後の難所です。

IPO準備(上場準備)における注意点等

資本政策

資本政策とは、事業を展開するにあたって資本をどのように活用するかを考えることです。
注意すべきは、株式発行による資金調達だけではなく、安定株主の議決権割合を確保しつつ、事業に必要な資金を資金調達の手段やタイミングを調整し、役員や従業員にインセンティブの付与を考えることです。
例えば、IPO時にオーナーが過半数の議決権(例えば50%)を確保しようと思うと、残りの50%で資金調達や役員・従業員へのインセンティブを与えなければなりません。
また、VCから資金調達をする場合は尚更で、保有比率が希薄化するためIPO時にどれだけの議決権比率を維持したいのかということから逆算して資本政策を策定し、資金調達することが重要です。

経営管理体制

会社を設立してからしばらくは経営者や創業メンバーによる属人的な経営で問題無かったのが、SeriesBあたりから徐々に組織的な経営にシフトする必要があります。また、上場して会社規模を大きくするためには、投資家等の利害関係者も多くなり、会社は創業者だけのものではなくなり、社会的責任が大きくなることから、それなりの組織体制が必要となります。
そこで、経営上の業務執行の監視の仕組みや内部統制の仕組みを整備運用することで、コーポレート・ガバナンスを機能させる必要があります。コーポレート・ガバナンスとは、効率的かつ効果的で健全な企業運営を行う上での経営管理の仕組みです。
一般的には、代表取締役が業務執行をして、業務執行の状況を取締役会に報告、内部監査室による内部監査や会計監査人による会計監査、監査役による監査により、経営者が構築した内部統制が有効に機能しているかどうかがチェックされます。
内部監査や監査役による監査の目的の1つは、会社の業務や取締役の業務執行が法令や規定に則って運用されているかどうかをチェックすることがありますが、その前提として、職務分掌や各種規程類の整備がされていることが前提です。

業務管理体制

業務管理体制の構築として、主なものは、販売管理、購買管理、在庫管理、資金管理、固定資産管理、人事労務管理等があります。
例えば、販売管理では、与信→受注→販売→請求→代金回収という一連の販売の流れにおいて、取引先の信用調査、受注内容や取引条件、商品やサービスの適切な提供、売上計上、請求、代金の回収等の業務が適切に実施・記録されるような体制を構築します。
また、人事労務管理では、労働基準法等の法令が遵守されているか、社会保険等の加入漏れがないか、従業員の定着率は安定しているか、給与計算等は適切か等、適切に業務が実施されることを担保するための体制の構築が必要です。

上場申請書類

上場申請書類の主なものには、新規上場申請のための有価証券報告書【Ⅰの部】、新規上場申請のための有価証券報告書【Ⅱの部】(東京証券取引所の本則市場に上場する場合)、新規上場申請者に係る各種説明資料(マザーズに上場する場合)、JASDAQ上場申請レポート(JASDAQに上場する場合)、新規上場申請のための四半期報告書、有価証券届出書・目論見書等の作成が必要となります。
作成には相当の時間が必要であるため、社内リソースが不足している場合は、IPOコンサルティング会社へ外注することも一つの選択肢です。
また、IPOする会社は、上場時から遡って2会計期間の有価証券報告書について、監査法人の監査証明を受けなければならず、監査法人対応を行わなければなりません。
会計基準に則った会計処理を行う必要があることや、上場後に決算・開示を行う体制が整っているか等の視点で厳しくチェックされることから、それなりの知識・経験を有した担当者を会社の窓口として置く必要があります。

上場のための審査

冒頭でも少し記載しましたが、上場のための審査は、引受審査と上場審査の2種類があります。
引受審査は、主幹事証券会社が引受責任を果たすために、資料や情報等を基に有価証券の引受の可否を判断する審査です。
引受責任とは、会社の株式を主幹事証券会社が取得して販売し、売れ残りは自ら買い取る責任のことです。
上場審査は、上場会社として一定の品質基準(適格基準)を満たしていることを、証券取引所が上場審査基準に基づいて判断する審査です。証券取引所の審査は2〜3ヶ月程度かかり、上場審査が終了すると上場が承認され、上場承認後1ヶ月程度で公募・売出しが完了し、証券取引所への株式上場となります。

まとめ

以上、今回は、スタートアップの上場準備について記載しました。
これからスタートアップで上場を目指す方の参考になれば幸いです。