公認会計士が教える非上場株式の株価算定と企業価値評価

公認会計士が教える非上場株式の株価算定
本記事のテーマ
そもそも、株式とは何か、株式と株価の関係については、スタートアップにおける株式と株価
をご覧下さい。
その上で、今回は、スタートアップが、VCからの資金調達、第三者割当増資、ストックオプションの発行等のタイミングで必要となる株価算定について解説します。
非上場株式の株価算定
非上場株式の株価算定とは
上場株式であれば証券取引所で日々、数多くの取引が行われているため、取引の中で自然と価格が形成され、取引成立した価格が株価になります。
しかし、非上場株式は、証券取引所のような市場がなく、売買するには当事者間での契約による取引が必要です。また、譲渡制限が付されていて自由に売買できない場合も多く、1株あたりの株価がいくらなのか不明な場合が多いです。
そのため、1株あたりどれくらいの価値があるのかを計算する目的で、株価算定を行います。
通常は、会計事務所等に依頼して株価算定書を作成してもらうケースが一般的です。
株式の価値とは
株式の価値を算定するにあたって、まずは会社全体の価値を算定する必要があります。
会社全体の価値のことを一般的に「企業価値」と呼びます。
「企業価値」は、「事業価値」と「非事業用資産」で構成されています。
「非事業用資産」とは、事業を運営するために使用していない資産(遊休資産)や、手もとにある現預金等(余剰資金)のことです。
「事業価値」とは、事業から創出される価値です。営業フリー・キャッシュ・フローの割引現在価値として計算されることが一般的です。営業フリー・キャッシュフローとは、金融機関からの借入等(有利子負債)に係る支払利息や、特定の投資家等への配当金等を控除する前のキャッシュ・フローです。
そして、株式は会社の所有者である株主の持分なので、「企業価値」から有利子負債等の他人資本を差し引いた金額が、株主に帰属する価値である「株主価値」ということになります。
株主が会社の所有者であるという考え方については、会社の種類と株式会社をご覧下さい。
企業価値を形成する要因
「企業価値」を構成するのは、「事業価値」と「非事業用資産」と記載しましたが、株価算定をする上で「企業価値」に影響を与える要因として、以下のような項目を検討します。
要因 | 項目 | 検討内容 |
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マクロ的な要因 |
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業界固有の要因 |
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会社の要因 |
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株主の要因 |
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株価算定の目的 |
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非上場株式の株価算定方法
評価方法の種類
評価方法には、一般的には大きく、インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチの3つがあります。
評価アプローチ | 特徴 | 具体的な方法 |
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インカム・アプローチ | 会社の利益やキャッシュ・フローに基づいて価値を評価を行うため、将来の収益獲得能力を価値に反映させやすい評価方法です。また、市場での取引環境等の要因は、割引率等を通じて反映します。一方でフリー・キャッシュ・フローには、事業計画等の将来情報に対する恣意性の排除が難しいことも多いため、客観性が問題になるケースがあります。 |
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マーケット・アプローチ | 上場している同業他社や類似取引事例などと比較することで、相対的に価値を評価する方法です。第三者間や市場で取引されている株式との相対的な評価方法なので、市場での取引環境の反映や、一定の客観性には優れている方法です。一方で他の会社とは異なる成長ステージにあるような場合や、そもそも類似する上場会社が無いような場合は、評価が難しい場合もあります。 |
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ネットアセット・アプローチ | 会社の貸借対照表上の純資産に注目した評価方法です。帳簿上の純資産を基礎として、一定の時価評価等に基づく修正を行うため、帳簿作成が適正で時価等の情報が取りやすい状況であれば、客観性に優れています。一方で、一時点の純資産に基づいた価値評価を前提とするため、将来の収益獲得能力の反映や、市場での取引環境の反映は難しい方法です。 |
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評価方法の選定
企業価値に影響を与える要因や検討結果を基に、上記の評価方法の中から最適な方法を選定します。とはいえ、最適な方法に絶対的な答えがある訳ではないので、実務的には、複数の方法で評価を行って、その結果を比較検討して、最終的な株価を計算することが多いです。
評価方法を選定する上で、考慮すべき要因としては以下のとおりです。
会社のライフステージ(成長期、成熟期、衰退期)
成長期にある会社であれば、ネットアセット・アプローチによる株式評価は企業の持つ将来の収益獲得能力を適正に評価しきれない可能性があります。
一方で、衰退期にある会社で収益性の低い会社では、場合によってはネットアセット・アプローチによる株式評価が過大評価となってしまう可能性があります。
会社が継続できるか不明な状況にある場合
インカム・アプローチやマーケット・アプローチは一般的に会社の継続を前提とした価値評価ですので、会社が継続できるか不明な状況では、このような評価方法は最適でない可能性があります。
知的財産等の超過収益力を持つ会社
ネットアセット・アプローチで株式の評価を行う場合は、貸借対照表における純資産を基に評価するため、貸借対照表に計上されていない無形資産や知的財産等が価値が評価されない可能性があります。
そのため、超過収益力等を価値評価に反映させやすいインカム・アプローチなどの評価方法の選定を検討すべきです。
類似上場会社のない新規ビジネス
全くの新規事業で、類似上場会社が存在しない、又は類似取引事例が無いような場合は、マーケット・アプローチによる価値評価は難しいです。類似した商品・製品を取り扱っていても、事業のコンセプトやビジネスモデルが全く異なる場合にも、マーケット・アプローチを適用することによって誤った評価になる可能性があります。
総合評価
このように、それぞれの評価方法にはメリット・デメリットがあるため、会社をインカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチのそれぞれの視点から把握して、会社の価値を多面的に分析し、偏った視点からの価値算定にならないように留意します。
そして、前述したように、実務的には、それぞれの評価結果を比較・検討しながら最終的に総合評価するのが一般的です。
総合評価には、以下のような方法があります。
単独法
インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチのいずれかを単独で採用し、その結果を総合評価の結果とする方法です。
併用法
インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチのそれぞれの評価方法を複数選択し、各評価法の結果を比較・検討して最終的な評価額を算定する方法です。
実務的には、それぞれの評価法による算定結果に重複するところがあれば、その金額を目安とする場合もあり、また、それぞれの評価方法の結果が近い場合に適用しやすい方法です。
折衷法
インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチのそれぞれの評価方法を選択し、各評価法の結果に一定の折衷割合を加味して総合評価を行う方法です。
折衷法は、評価結果により差異が生じ、いずれかの評価法を加重平均した方が妥当なケースにおいて適用しやすい方法です。
まとめ
以上、今回は非上場株式の株価算定方法でした。
次回以降の記事で、具体的な計算方法や評価の事例をご紹介できればと思います。
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